当たり前だと思っていたことが、当たり前じゃなくなりました|イノベーション・キュレーター塾座談会[前編]
イノベーション・キュレーター塾の魅力を改めて言語化したい。そんな髙津塾長からの呼びかけで、卒塾生の島田さん・南部さん・米丸さん、そして運営スタッフの川勝・宮原の5人が集まりました。8期のスタートに向けてより良いあり方を模索しているイノベーション・キュレーター塾。塾長の問いかけにそれぞれの立場から意見を交わし、これからどんな人にどんな価値を提供していけるのかを考えます。
自分の発する言葉には思ってる以上に力があると気づきました
── イノベーション・キュレーター塾の新しい展開を考えるために、この塾の何がよかったのかを改めて言語化していきたいと思っています。卒塾生の皆さんは、この塾をどんな人に勧めたいですか?
島田:僕は会社の後輩に勧めたいです。20代が2人と、30代が1人。うちはいわゆる大手企業ですが、今の世の中、定年まで勤められるかどうかなんてわからないじゃないですか。会社がなくなったとしても社会の中で生き残れる力をつけてほしいです。そのためには、外の人から見たら自分ってどうなんだろう、という感覚が必要。若い人ほど大きな可能性を持っているので、色々な経験をしてほしいですね。全部は掴めなくても、100あるチャンスのうち1つでも2つでも掴めたら生きるヒントになるんじゃないかな。
── 塾のプログラムの中で、島田さんが大きな気づきを得て、変わった瞬間がありましたよ。もう何年も前ですけど、私、あの回は忘れられません。それまでは「そんなん言われても……」という感じではっきりしなかったのに、何かが腑に落ちたことで表情が一変して。
島田:自分自身の可能性の奥深さに気づけたんだと思います。皆さんから色んなアドバイスや突っ込みをもらう中で、言葉の力って大きいなと思いました。言葉の意味をちゃんと調べて、考えるようになったんです。その結果、自分の発する言葉には思ってる以上に力があると気づきました。
── その気づきは、どういう時に起こったんですか?
島田:通常の塾の日程とは別に、少人数で対話して考えをブラッシュアップする場があったじゃないですか。そこで、過去の挫折経験について塾長やSILK所長の大室先生からどんどん突っ込まれて……負の遺産やと思っていたその経験が、実は人生の色んな決断につながっていて。自分の芯ができたような感覚がありました。
── その時から島田さんの表情も、言葉も変わりましたよね。きっと見える世界が変わって、見えていない人たちに、何が見えるのかを伝えることができるようになって。卒塾後も後輩たちに愛のある質問をたくさん投げかけてくれました。
人ってこんな風に自分で考えられるんやって驚いたんです
── 南部さんはどうですか?
南部:かなり具体的なんですけど、家業の会社の取締役です。父から弟に代替わりをする過程で色々と難しいことがあって、私は事業を承継するってどういうことなのかをずっと考えてきました。顔が浮かんだ3人は、多分今すごく迷っていると思うんです。独自の経営哲学で会社を引っ張ってきた先代が第一線を退いて、新しい軸を求めているというか。
── 南部さんは、別の会社で管理職として働きながら、家業の会社で月1回会議に参加することを続けていますよね。事業承継についての考え方は、塾を通してどのように変わりましたか?
南部:塾に入る前は事業承継って、先代の作り上げた会社を経営哲学も含めて上手く継承する事だと思ってました。卒塾後は、事業承継で重要なのは、今経営に関わる人たち自身が自分を振り返って何を大事にしたいのか、どう在りたいか。自分たちで考える事だと思うようになりました。そこを明確にした上で経営を担ってもらえたら、いい会社になるのかなって。
南部:塾での学びがあったから、それまで見えていなかった会社のことがわかるようになりました。自分自身に対しても、自分で考えていいんや。思考は自由なんやと驚いたんです。
── 自分で考えるくせをつけてもらうことを大事にしているので、嬉しいですね。イノベーション・キュレーター塾は、思考の体質改善をする場所なのかなと最近思っていて。考えることを放棄してしまっている人が増えているように思うんです。これだけ世の中が変化している中では、自分のためにも、人に寄り添うためにも、自分の頭で考えることは絶対に必要なのに。
一歩踏み出して行動するってことを経験できた
米丸:僕が塾を勧めたいのは、直属の上司です。社内への意識が強い、いわゆる組織人タイプの人なので、外の考え方に触れてもらえたらと思って選びました。金融機関ならではかもしれないですけど、みんな答え合わせをしながら仕事してるんですよ。誰から見ても正解であることが求められるので、やってみなわからへんっていう状態では踏み出せない。僕は塾での取組を通して、小さくてもいいから一歩踏み出して行動するってことを経験できたと思っていて。
── 答え合わせをしているっていうのはどういうことですか?
米丸:たとえば何かイベントに参加するにしても、自分の内側に行きたい気持ちがあるわけじゃなくて、上司に言われたから、関係先が関わってるから、顔出しとかなあかんっていう理由が先にあるんです。僕はそういう動き方はなんか違うなと思っていて。自分の思いで動く方が成功しても失敗しても楽しめるし、そういう人を応援したくなります。
── 間違いたくないっていう意識があるんでしょうね。私の考えとしては、そもそも正解と間違いに分ける必要はなくて。ただ違う方法がいくつもあるっていうだけなのかなと思います。
米丸:塾に行ったことで、自分の思っていることを言っていいんやって思えたので、今は言いたいこと言ってます。あとは、若い人たちにもぜひ参加してほしいですね。先日、職場に高校生が来てくれたんです。すでに社会課題やSDGsに関心を持っていてすごいなと思う一方で、言葉が上滑りしているような感覚もありました。そういう言葉が当たり前に使われるようになったけど、やっぱり心に響く体験がないと、浅いところで終わってしまう。実際に社会課題に取り組んでいる人からリアルな話を聞いてほしいなと思います。
解き放たれて、今まで言えなかったことを言えるように
── 運営側として関わってくれた2人にも、塾の魅力をぜひ聞いてみたいです。
川勝:塾の創業から7年間スタッフとして参加させてもらって、私自身もだいぶ変わったと思います。講師の方も塾生の方も一人ひとりが違う課題意識を持っているので、自分が全く接点のなかった世界を知ることができますよね。たとえば、若い女性の居場所作りをしている人、地域活性化に取り組む人、どうしたら失敗を許容できる世の中になるのかを考えている人。視点がバラバラなのがおもしろい。色々な視点を知ったことで、日常のあらゆる場面で自分と社会とのつながりを意識するようになりました。今着ている服はどうやって作られたんだろう、とか。当たり前だと思っていたことが、当たり前じゃなくなりました。
宮原:私が一番衝撃を受けたのは、皆さんが自分の過去と向き合うことで、自由になっていく様子でした。「ストロングルーツ」と呼ばれる、自分が今抱えている気持ちの原点を探る過程で、皆さん改めて自分の人生を見つめ直しますよね。それを皆の前でさらけ出すことで、殻が外れていくように私には見えました。解き放たれて、今まで言えなかったことを言えるようになって、周りはその思いをなんとか実現させてあげようと真剣に助言をして……卒塾の時の皆さんの清々しい表情がすごく印象的です。
川勝:周りからフィードバックを受けながら自分を深堀りしていくことで、一人で考えていても気づかなかったことに気づかせてもらえる感じがありますよね。「そこかなりこだわってますよね」って言われて初めて自覚したり、「本当にそうなんですか?」と問われて「実は違うのかも」と捉え直せたり。とことん自分と向き合うことで、自分を主人公にした人生を考えられるのかなと思います。
聞き手:イノベーション・キュレーター塾塾長 髙津 玉枝
協力:3期 島田 順一さん / 5期 南部 明子さん / 6期 米丸 隼太さん / 京都市 宮原 崇 / 事務局 川勝 美智子
取材・文:阪本 純子 / 柴田 明(SILK)