中小企業診断士 阪本純子さんーイノベーション・キュレーター塾生インタビュー
現在、第二期生を募集中のイノベーション・キュレーター塾。
こちらでは、第一期塾生へのインタビューにより、塾の魅力と、塾生のみなさんに起こった変化についてご紹介します。
第三回目のインタビューは、中小企業診断士であり、海外青年協力隊OBの阪本純子さんにお聞きしました。
型にはまらない、より気持ちのいい、多様な働き方・生き方の支援を行いたいという阪本さん。イノベーション・キュレーター塾でどんな発見をされたのでしょうか。
■塾に参加したきっかけ:「なんだか面白そう」
仲筋:どのようなきっかけでイノベーション・キュレーター塾をお知りになったのですか。
阪本:(社)京都府中小企業診断協会が主催するシンポジウムの企画運営スタッフを務めていたときに、京都市ソーシャルイノベーション研究所やイノベーション・キュレーター塾のことを知りました。㈱ウエダ本社さんが中心になって開催されているイベント「京都流議定書」でもイノベーション・キュレーター塾のチラシが配布されていました。
チラシを見て、具体的な内容は分かりませんでしたが、「なんだか面白そう」と思いました。
実は、以前にJICAボランティアとして活動していたこともあり、「これからの1000年を紡ぐ企業認定」に認定されたシサム工房さんや、髙津塾長の「LOVE&SENSE」を存じ上げていたことも「なんだか面白そう」と思えたのかもしれません。
JICAボランティアとして派遣される直前に、地域開発の手法や生物多様性の問題などを学ぶ機会がありましたが、社会的課題はそれだけではありませんから、より幅広い観点を持ちたいと思ったからだと思います。中小企業診断士の資格をとったのも、自分のスキルを上げて、より幅広い観点を持ちたいと思ったからだと思います。中小企業診断士として活動するようになってからも、創業スクールやNPOさんの活動支援、ビジネスコンテストなどのお手伝いなどもあり、そこでの支援スキルについて未熟さを感じていたこと、また人材ビジネスをしている会社の人事としても課題が多く、より気持ちのいい働き方、生き方の支援ができないかということなど、いろいろと思い悩んでいたことも、参加を決めた理由です。
■塾での気づき:「”自分ごと”としてとらえることが大切」
仲筋:実際にイノベーション・キュレーター塾を受講されて、いかがでしたか。
阪本:今まで知らなかった世界を沢山知ることができましたね。
仲筋:特に印象に残っているゲストは、どなたでしたか。
阪本:まずは、サラダコスモの中田社長です。当初は利益優先の企業というイメージだったのが、南米の農家を支援するなどの取組を通じて利益と社会性の両輪のバランスが整っていったところが印象的でした。耕作放棄地対策や高齢者を雇用したレストランの運営など、食を通じて地域に貢献するという姿勢も素晴らしいです。
一方で、イオンや生協にもスプラウト製品を卸しているなど、利益を上げるための企業活動も積極的に展開されている。そういう企業だからこそ、従業員や顧客、取引先といった「人」が集まる組織になっている。「人」が集まることで、岐阜の中津川という地域にもよい影響を及ぼしている。
また、受講した当初は、イノベーション・キュレーター塾の中で中小企業診断士の業務の枠組みの中で「支援の手法」を獲得することを考えていました。しかし、手法ではなくて、「自分ごと」としてとらえることが大切であるという気付きが大きかったです。課題としてマイプロジェクトを考えることは、自分の生き方そのものに関わってきますので、真剣さも足りていないことを痛感しました。
仲筋:「人」の観点でのご関心をお持ちなのですね。
阪本:私は中小企業診断士、企業の人事部門の担当者という「二足のわらじ」で活動しています。両者とも、企業組織の課題に対し、どのように対処するかが問われます。社会では、人材不足への対応、退職者の発生、メンタルヘルス対策など、様々な課題が発生しています。
こういった課題に対しては、「どうしたら目の前の課題を解決できるかを教えて欲しい」という即効性のある「対処療法」を求められることが多い。制度をいじっても、その場しのぎの対応になってしまうことがあります。しかし、「人が生き生きと働ける組織」を作るための即効性のある「対処療法」は存在しません。誰もが、なんとなく分かっていると思うのです。そのヒントがサラダコスモには在ったのだと思います。
仲筋:サラダコスモさんには、様々な人が集まっていますよね。中田社長も「なぜか、有名大学卒業者も就職するんだよ」とおっしゃっていましたね。
■今後の挑戦:「いろいろな人が活躍できる社会に!」
阪本:サラダコスモさんには、そういった若い人々だけでなく、高齢者、障害者など様々な方が働いておられました。
私は元々「人が生き生きと働く」ということについて感心があったのですが、どうしても働く人の属性によって区切って対処していました。例えば、女性にとっ て、障碍者にとって、働きやすい職場とは何か、というように。しかし、このように区分けするのではなく、それぞれの人が、それぞれの事情に合わせて働ける ことが必要なのだと思いました。
仲筋:男性だから、女性だから、という区分けではなくて、ですね。
阪本:そうですね。例えば、仲筋さんが「小学生の子どもの勉強をみてやりたいから、早く帰りたい」と言ってもいいわけです。そこには、男性だろうが、女性だろうが、関係ありませんよね。
仲筋: そうですね。自分の職場でどのように受け止められるかを考えると、まだまだ賛否両論あるかもしれませんね。
阪本:そういう型にはめないで、組織の中で互いの考え方を共有し合えることが必要なのっだと思います。むしろ、プライベートの活動を評価するほうがいいと思います。ロート製薬も副業を認めていますよね。
仲筋: 小学校の娘の勉強を見ることがありますけど、「コーチング」の基礎形態だと思うことがあります。ほめてばっかりでもダメですし、強制するわけにもいかない。とはいえ、代わりに私が宿題をしてやっても、本末転倒ですしね。
阪本: プライベートの活動が本業によい影響を与えるはずだと思いますが、その影響を証明しなければならない。それが、これからの私の課題、マイプロジェクトです。まずは、私が所属している企業で、少しずつ良い影響を与えていきたいですね。
仲筋: まずは、自ら新しい働き方を提示していこうということですね。
阪本: そうありたいです。いろいろな人が活躍できる社会、特に「正社員」がスタンダードという常識を変えたいですね。私自身、偶然の成り行き・ご縁のおかげで 「複業」です。月90時間の短時間正社員人事担当、そして中小企業診断士という2つの立場で働いています。私の上司も、いい感じでいろいろな課題を与えて いただけますし、会社にとっても相乗効果があると思っています。短時間正社員制度を導入した当時は、担当を持っているパート従業員をすべて短時間正社員に したのですが、今は私一人だけになってしまいました。本当は短時間正社員を増やしていきたいのですが、そこへの意識は弱く「正社員」(=残業も厭わない) が使いやすいということが根底にあるように感じる言動もしばしばみられます。そんな風土も作れていません。
今後は、経営者と従業員の関係が「雇う-雇われる」関係ではなく、それぞれの目指す姿や人生の目標と会社の目標の共通する部分を見出してリーダーが「束ね る」ことで事業が遂行できるという感覚、本当の意味で「様々な立場の人が様々な人生の時期を乗り越え、長く働くことができ、成果を出せる場・企業づくり」 (所属する社長の言葉なのですが)をしていきたいです。そのための手法でいろいろとまだ悩んでいて行き詰っているのですが、今の立場で事例を作り、それを 支援現場にも活かしていきたいですね。特に中小企業は、制度を入れるのは簡単だけど、それ以前の風土づくりができていないとすぐにそれが形骸化しやすい、 特に目先の利益が出ていない状態だとそんなことは後回しになってしまいがちです。
仲筋:一方で、中小企業診断士という役割もお持ちですね。
阪本: 中小企業診断士の役割は、様々な経営者と語る中で「こうやったら良いんだ」という糸口を自ら気付いていただくお手伝いをすることです。厳しい経営環境 にある企業からは、「早く何とか苦しい状況を脱したい」と対処療法を求められることがありますが、あくまで社長自ら気付いていただくことが必要なのです。 むしろ、厳しい経営環境にある企業ほど、組織の再生が必須なことが多いのです。従業員、顧客、取引先といった「人」に必要とされる組織でなければならな い。組織の魅力を上げることができる短期的な処方箋はありません。社長自らが「マイプロジェクト」として取り組んでいただくことで、社員に目を向けること ができるようになる。そうすれば、人が集まってくる組織になるはずです。
一方で、いくら社会課題を解決するために頑張っていても、社員を平気で残業させて搾取しているような組織は、人が集まってくる組織とはいえないのではないでしょうか。
ひとりひとりの持つ多様な個性が社会の中で十分に発揮され、成長している実感や役に立っているという実感によって、幸せを感じ優しく前向きになれる世界を実現したいと考えています。生き方っていうと大きすぎますが、そんな世の中づくりに貢献できることを企業の支援を通してできるだけの人間性も必要ですね。
■受講をお勧めしたい方:若手リーダー、会社経営者、銀行員、政治家?JICA協力隊OB(帰国後視野も広がって、何かしたいとうずうずしている仲間)
仲筋:イノベーション・キュレーター塾には、どのような方に受講を勧めたいですか。
阪本:本当に様々な人と出会えることができました。このまま関係性が失われるのがもったいないと思います。ぜひ、このメンバーで何かに取り組みたいと思いますので、髙津塾長や事務局の方に音頭をとってもらえれば嬉しいです。そんな輪の中に2期生も入ってもらえれば嬉しいですし、若手リーダー、会社経営者、銀行員、政治家?JICA協力隊OB(帰国後視野も広がって、何かしたいとうずうずしている仲間)に是非参加してもらいたいですね。
聞き手-仲筋 裕則
京都市産業観光局商工部中小企業振興課 ソーシャル・イノベーション創出支援課長補佐。2012年から京都市ソーシャルビジネス支援事業を担当。 ビジネスを活用して社会的課題の解決に取り組む「ソーシャルビジネス」の認知度向上と 企業育成のための支援に取り組み、京都から日本の未来を切り拓く様々な活動を行う。