【レポート】第3回 イノベーション・キュレーター塾
今回はNPO法人スマイルスタイル代表の塩山諒さんがゲスト。
テーマは「あらゆる逆境をポジティブに転化する!」です。
若者代表として登壇された塩山さんですが、これまで経験してこられた苦難の数ならば、他のスピーカーの方々に負けない!小学校時代のひきこもりの経験から食品工場でキャベツの千切りに励む日々までを明るく、あっけらかんと語る塩山さん。むしろ、このような体験から見出した「人生の真理」を糧に事業を生み出 していくバイタリティに、受講者の皆さんは圧倒されていた様子でした。
それでは、当日のダイジェストをレポートします。
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■引きこもりというジブンゴトを事業に
まず塩山さんから、「自分は「中卒」であり英語も喋れない。そんな自分がどうやって会社を経営しているか聞いてもらいながら、みなさんの勇気になれば」とお話がありました。
塩山さんは、「ひきこもり」の経験があり、小学3年生以降学校に行っていません。そしてその時、市の教育委員会が行う、ボランティアによる家庭教師を通して、不登校の自分でもやっていけるという将来の希望を得たそうです。その後、工場で働きながら、家庭教師や児童養護施設でのボランティアや、不登校の子どもの保護者による会において、自分の経験を話す活動をしていました。
活動を通し、不登校に苦しみ、自殺未遂を行う子どもの状況を見るにつけ、「一刻も早く解決したい」「法律や制度を変える側になりたい」と思うようになった塩山さん。そんな想いを熱く職場で語ったところ、政治家を紹介され、カバン持ちをすることになりました。それからは、東京で行われる政策勉強会に参加する事を通して、不登校を他人ごとではなく、自分ごとにおきかえてもらうには、関心をもってもらい、なおかつ投資をしてもらうことが必要であり、「不登校の子にこれだけ予算を落とすとどれだけ働いてくれて税金が減るよ」というエビデンスがないと国は動かないという持論にたどり着きました。
■22歳での起業と、事業が好転した契機
その後、塩山さんは22歳で起業し、ビジネスコンペの賞金100万円で事務所をたちあげました。しかし、ツテがない塩山さんの会社に仕事は来ません。また、自分がやりたいことを友人に話しても伝わらず、「友達でさえ説得できてないのに、ひきこもっている彼らの意識や行動を変える選択を作れるわけがない」と思い、まずは社会の問題に少しでも関心を向けてもらうための「ごみひろい」のプロジェクトを始めました。「オールナイトごみひろい」や「無人島ごみひろい」など、カラオケや飲み会じゃなくゴミ拾いをしようという動きは、口コミで「面白い」と評判がひろがり、いつしか100人集まる活動になりました。
この動きが話題になり、メディアや広告代理店などから連絡があり、塩山さんに関心を持った彼らから仕事をもらえるようになりました。最初の仕事は、アメリカ村の地域活性化でした。「2年くらい食べられなかったけれども、最初はNOと言わずに何でもすると決めていた。1000本ノックのように寝ずに企画書を書きつづけ、1日も休まずに働き、仕事を創る流れをリアルで体験させてもらった。」と当時を振り返ります。
■大阪ニート100人会議
次の大きな契機になったのは、2011年にプロデュースした「大阪ニート100人会議」です。ニート状態の若者100人が集まり、仕事や必要な支援などについて8時間の対話を行いました。その中で、履歴書に空白期間があるため書類選考で落とされるという声から、履歴書ではなく働き方で採用を決める「超就職」の事業が生まれました。お好み焼の千房やUSJなどに、25名がインターンシップを行い、16名の雇用が決まりました。多くのドラマが生まれ、その様子はNHKによりドキュメンタリー番組になり放送されました。その結果、ニート状態の若者の親や祖父母、そして本人からの問い合わせが急増したそうです。
■日本の雇用政策にイノベーションを
10年以上引きこもっている人は福祉の支援領域に近くなっている人が多く、現在は若年者に生活保護予備軍が増えているそうです。塩山さんは、福祉に頼らない生き方を望む人に対して、自立して生活していける就労モデルの構築を目指しています。
「雇用政策を考える際に、日本では労働者全員を正社員化しようとする政策が多いけれど、今は発想の転換が必要な時期。現在、スマスタのサポートの末に就職した若者も、数年後には結婚という選択肢が出てくる。その時に、全国に800万件ある空き物件と地域コミュニティなどを活用し、非正規雇用でも収入が180万でも結婚してこどもをつくれる世の中の仕組みを作りたい」。
「どういう順序でやれば、最短距離で攻略できるのか、イノベーションを起こせるかつねに考える。問題を読み解き、問題に対しいろんな文脈がある中で、どこを切り取り、物語を創っていくのか。僕たちはハローライフをしているが、切り取り方提案の仕方は多様であっていいと思うし、正解はない。ひとつ、今の日本に新しいビジョンや政策として提案できるものをつくっていこうと思って実践している」
現場と俯瞰的な立場を行き来し、自分の立ち位置とゴールを見定め、着実に成果を挙げている塩山さん話はとても力強く、塾生のみなさんの心を打ちました。
■殻を破る
後半では、塾生のマイプロジェクトを共有するグループワークを行いました。塾生の発表に対し、塩山さんや髙津塾長から新しい発想ポイントの提供や厳しい意見もありました。行動を起こしていくにあたってネガティブとなる点をいかに反転してプラスの意味を持たせながら、足元からリアルに動かす点が大切なキーとなるようです。
塩山さんのこれまでの道のりには、自分のやりたいと考えている事を実現するために乗り越えなければならない壁を、いかにして楽しく乗り越えてきたのか、そのプロセスを見ることができました。今回のIC塾を通して、塾生の方々がソーシャルイノベーションのトッププレイヤーの方たちを見る中で、どこか「自分にはできない」などといったいつの間にか抱えてしまっていたネガティブな要素を払拭できたのではないのでしょうか。
レポート担当:青山達哉(京都市ソーシャルイノベーション研究所インターン)
■感想 塾生:松下晶さんより
キュレーター塾の第3回目は、民間の職業安定所として「ハローワーク(こんにちは、仕事)」ではなく「ハローライフ(こんにちは、人生)」とう名称を冠したユニークな場を立ち上げるなど、などさまざまなソーシャルデザインを事業とするNPO法人スマイルスタイルの塩山諒代表のお話でした。
恥ずかしながら講義を受けるまでは塩山氏のことを存じ上げませんでしたが、お話を聞いて、自身の不登校など様々な実体験が現在の事業の動機と結びついており、また、ともすれば重苦しくなってしまうストーリーを面白おかしく語るその人柄にすっかり魅了されてしまいました。
特に工場勤務時に「キャベツの千切り」をいかにして極めるかについて身振り手振りをまじえて熱く語っていた場面では開場に笑いの渦が起きていました。
お話を聞きながら、こうして説得力を持って人に語り魅了できることこそが塩山さんの突出した「人を巻き込む力」、リーダーシップの源泉となっていることを強く感じました。
講義後は懇親会もあり非常に近い距離でやりとりをさせていただき、おおいに刺激や気づきを得ることができました。
◆氏名・所属
松下晶
ボンジュール現代文明主催 / 猟師見習い / 中小企業診断士