【レポート】第1回 イノベーション・キュレーター塾
現在、第2期の塾生を募集しています「イノベーション・キュレーター塾」。第1期は2015年の9月からスタートし、現在は後期課程として、塾生の皆さんは 実現したいプロジェクトのブラッシュアップに取り組んでおられます。
京都市ソーシャルイノベーション研究所では、第1期の塾生の皆さんが、各界の最先端で挑戦するイノベーターとの対話を重ねた「前期課程」の中で、何に気付 き何を得ることができたのかを連続でレポートします。 第2期も、内容をバージョンアップした前期課程を御用意しておりますので、皆さんのエントリーをお待ちしています。
イノベーション・キュレーター塾(以後IC塾)の第1回が、2015年9月26日(土)に開催されました!
今年度が初年度となるIC塾。「自分の経営している事業でソーシャル・イノベーションを起こしたい」、「自分の働く企業内でイノベーションを起こしたい」、「支援している企業に社会性をインプットして成功してもらいたい」と思っておられる、事業者・出版業・広告業・税理士・中小企業診断士・研究職・金融業・公務員など、実に多様なバックグラウンドを持つ16名が第一期塾生として集まりました。
IC塾では、ソーシャル・イノベーターに触れることでその視座を学び、社会課題の解決とビジネスがつながる視点を養います。塾生ひとりひとりがソーシャルチェンジに挑戦できる力を、前後期一年間の座学とワークショッププログラムを通して養います。
■イノベーション・キュレーターに必要な素養とは?
いよいよ塾初日、初めに塾長である、株式会社福市 代表取締役の髙津玉枝氏より、「イノベーションキュレーターに必要な素養とは何か」というお話がありました。
ここでは、「社会的課題を俯瞰し、その本質を掴む力」をテーマに、バングラデシュの商業ビル「ラナプラザ」崩壊の事例を取り上げ、この本質的な原因は何か、を座学とワークショップで検討していきました。
日本ではほとんどテレビやメディアで取り上げられなかった「ラナプラザ崩壊事故」。
ビルの建築基準が守られず建て増しを繰り返し、前日にビルの柱にひびが入っていることを従業員が経営者に訴えても、「来ないと賃金を払わない」という、過酷な環境の中、多くの人が出勤し、その中で1000名以上の命を奪うビル崩壊事故が起きました。
この事故を表面的に捉えると、「建築基準を守らないオーナーが悪い」「行政の指導がなっていない」「危険を分かって出社した労働者も悪い」という批判につながりがちです。しかし、この事故を俯瞰してみてみると、劣悪な労働条件で従業員を働かせ、徹底的にコストをカットすることで安価な商品を提供し続けている、ファストファッション業界の仕組みが複雑に絡み合い、事故を成り立たせているのが見えてきました。そして、それはファストファッションの経営者や従業員だけではなく、「安いもの」を追求する私たちひとりひとりのあり様が本質的な問題でもあるという気づきがありました。
塾長からは、この「社会的課題を俯瞰し、その本質を掴む」という視点を持つことこそが、イノベーション・キュレーターに必要な素養であることが示されました。
また、「現在は、情報化社会と呼ばれるが、やってくる情報は誰かが恣意的に選択した「受け手にとって需要がある」と判断されたものでしかない。待っていても重要な情報はやってこない。自分から必要な情報をつかみにいく手法やネットワークを築くことが必要」という塾長からのメッセージに、大きくうなずく塾生もおられました。
■ビジネスモデルが先行するのではなく、経営理念を大切にした経営を
IC塾、第1回のゲストスピーカーであり、京都市ソーシャル・イノベーション研究所の所長、大室悦賀氏からは、ソーシャル・ビジネス支援に携わる立場から様々な議論が提起されました。
まず、日本企業の多くが経営理念をなおざりにしたまま、効率性を過度に重視し、「貨幣価値に置き換えられない価値」、例えば社会との「関係性」やイノベーションを生む「無駄」を排除してしまっている。このように過度に効率性を重視することなく、「貨幣価値に置き換えられない価値」を発見・重視できる人材がいま社会に必要だということが話されました。
そして、かつては「大量生産し安く売る」という価値が広がっていたが、近年は、社会問題の顕在化や震災などで、こだわって物を買う時代がどんどん来ている。企業と消費者との「関係性」が早いスピードで変化してきている。また、「社会問題を解決する」ことだけではなく、事業の流れの中でいかに社会課題を生み出さない仕組みをつくるかが重要だという視点が共有されました。
その事例として、アウトドアブランド「パタゴニア」が紹介されました。同社は「最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」を経営理念にしています。「オーガニックコットンしか使わない」パタゴニアのような企業が消費者に受け入れられ、事業的にも成功しているモデルを社会に見せることで、賛同する企業を増やそうとしている話が紹介されました。
第一回目の授業は、非常に多くの情報がインプットされ、懇親会では、新しく得た知識や考え方について熱く話し合う塾生の皆さんで非常に盛り上がりました。
今後、塾や塾生のみなさんにどのような化学変化が起こっていくのか、非常にワクワクする4時間でした。
レポート担当:森 駿介(京都市ソーシャルイノベーション研究所インターン)
■感想 塾生:田中慎さんより
『ビジネスを通じて社会課題を解決する』この言葉を聞いてワクワクしませんか?
私はこの塾に参加するまで特に「社会課題」や「ソーシャル」に関心があったわけではありません。税理士として企業支援のあり方を模索しているときにこの塾のことを知り、ワクワク感とともに参加を決めました。
第1回目の講義では、大室所長から「関係性」をキーワードに京都市の取り組みの経緯や背景、構想に込められた想いを伺いました。特に私の心に残った言葉が「社会課題を生まない経営」。
私たち税理士が関与する中小企業は雇用の面で多くの社会課題を生み出しています。たとえば若年層の非正規雇用であり、母子家庭の貧困という社会課題。しかし、経営者は熱心に経営に取り組んでいる方が大多数であり、決して社会課題を生み出そうとしているわけではないのです。
それならば、社会の仕組みや既存の価値観に問題があるのではないか。物事をもっと「俯瞰」して見て、私たち一人一人が行動できることは何か。
すぐには理解できない内容もありましたが、振り返れば第2回以降の講義で気づきを重ねていくための基礎となる大切な講義でした。